◯◯な仕事をせなあかんよ!と教えてくれた姫路のケンさんの話
『仕事辞めようと思うんですよ。つらくて。くまおさんは仕事辞めてどうですか?』
大学時代の後輩は最近仕事が辛いらしい。
並んで座っていると顔が見えないからか、人は本音が出やすくなる。
彼も4年目かな・・・まだまだ人生これからじゃないかと思いながらマスターおすすめのウィスキーをロックで舐める。
『もっと楽しいことないですかね・・・・』
目の前に置いてある手作りパンの教室のチラシが目に入る。
『パン・・・・か・・・・・』
『えっ?パンですか?』
『いやっなんでもない・・・・』
そのとき僕は姫路のケンさんを思い出していた。
ケンさんは以前の仕事で営業をしていた時の取引先のおっちゃんだ。
だいたいいつも「まいど〜っ!」って言いながら近寄ってくる。
年齢は50歳過ぎだろうか。歳は・・・聞いたことがない。
そんなケンさんはよく100円均一のパン屋さんでお昼をごちそうしてくれた。
ケンさんはたまに何を言っているのか分からなかったけれど、
たぶん僕のことを可愛がってくれていた・・・と思う。
たまーにコンビニの駐車場でさぼっているケンさんを見つけるとバツが悪そうに車に積んでいる本をくれたっけ。たぶん口止め料ってことだったんだと思う。
ケンさん
『くまおくんな。あれやで!世の中チャリン、チャリ〜ンやで!』
僕
『チャリン、チャリ〜ンですか?』
ケンさん
『そやで、なんでも感謝感謝で、チャリンチャリ〜ンや!』
僕
『はぁ・・・・』
ケンさん
『ホラ、コンビニあるやろ。あれ高い思う?安い思う?』
僕
『スーパーとかより高いなぁと思いますけど。』
ケンさん
『あ〜〜〜ダメや!ダメやでそんなん!感謝感謝やで!』
僕
『高いのにですか?』
ケンさん
『たこぉないで!考えてみぃ!俺の為に年中無休24時間あんなに沢山商品置いて待ってくれてんのやで。俺なんかコンビニ入るたんびに今日も俺の為にありがとうございます。このお店が儲かりますようにっておもうて中に入るで。感謝感謝やでぇ〜』
僕
『ケンさんの為じゃなくてみんなの為に店開けてるんじゃないですか?』
ケンさん
『あ〜ダメやで!そんなんアカンわっ!俺のためやで〜。俺の為で、くまおくんの為で、ついでにみんなの為やわ〜。ひとりひとりの為に店開けて待ってくれとんのや!ほんま感謝感謝やで。』
僕
『う〜ん。』
ケンさん
『ワシかてあれやで、くまおくん仕事取ってきてくれておおきに。チャリンチャリ〜ン!おもうてるで毎日。感謝やで〜。』
僕
『話違うんですけど、仕事に卑賤はないって言うじゃないですかケンさんどう思います?』
ケンさん
『仕事に卑賤がないどころか。チャリンチャリ〜ンやって!』
僕
『・・・・・・・』
ケンさん
『たとえばあれや。うちのドライバーくまおくんに注文された商品夜中に運びはじめるんやで。』
僕
『そうなんですか?』
ケンさん
『そやで、毎日4時位には出とるで。夜も遅い時は遅いねん。それで給料たぶんくまおくんより安いで。でもな、楽しそうやで。なんでやと思う?』
僕
『なんででしょう・・・』
ケンさん
『そら楽しいからや!トラック運転するのが楽しいからやで〜。世の中にはトラック大好きで大好きでたまらんっって奴がおんのや。そんな奴からしたら給料とか回りがどうおもうてるとか関係ないねん。大好きなトラック運転して給料もろうて夜はビールに阪神や!最高や!チャリンチャリ〜ンってやつがおんねん。ほんま感謝やで〜。』
その時の僕はハッとしたのを覚えている。
自分は仕事を楽しんでいるだろうか。周りに感謝しているだろうか。
気付けば独りよがりな仕事をしていたんじゃないだろうか。
高飛車な自分に嫌悪感を抱いたのを覚えている。
感謝感謝で、チャリンチャリ〜ンか・・・・・
ケンさん
『くまおくんえぇ仕事しとんねんから。楽しまな。楽しい思わん仕事はしたらあかんで。ほんまに楽しないんやったらその仕事はやったらアカン。仕事に大事なんは楽しいかどうかや。好きかどうかやで〜。』
そんな話を聞いてからだったと思う仕事を楽しいと思えるようになったのは。
(その後ラーメンマンが入社してきてますます楽しくなった話はまた今度しよう。)
『くまおさんっ!?聞いてます?』
『チャリンチャリ〜ンだよ。』
『へっ?なんですか?』
『チャリンチャリ〜ンで感謝感謝。』
『どうしたんですか急に?』
久しぶりにケンさんに会いにいこうと思う。